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銀の匙 →銀の匙🔗⭐🔉
銀の匙 →銀の匙
私の書斎のいろいろながらくた物などいれた本箱の引き出しに昔からひとつの小箱がしまってある。それはコルク質の木で、板の合わせめごとに牡丹(ぼたん)の花の模様のつた絵紙をはってあるが、もとは舶来の粉煙草(こなたばこ)でもはいってたものらしい。なにもとりたてて美しいのではないけれど、木の色合いがくすんで手ざわりの柔らかいこと、ふたをするとき ぱん とふっくらした音のすることなどのために今でもお気にいりの物のひとつになっている。なかには子安貝や、椿(つばき)の実や、小さいときの玩(もてあそ)びであったこまこました物がいっぱいつめてあるが、そのうちにひとつ珍しい形の銀の小匙(こさじ)のあることをかつて忘れたことはない。それはさしわたし五分(ぶ)ぐらいの皿形(さらがた)の頭にわずかにそりをうった短い柄がついてるので、分(ぶ)あつにできてるために柄の端を指でもってみるとちょいと重いという感じがする。私はおりおり小箱のなかからそれをとりだし丁寧に曇りをぬぐってあかずながめてることがある。私がふとこの小さな匙をみつけたのは今からみればよほどふるい日のことであった。
広辞苑 ページ 24027 での【銀の匙 →銀の匙】単語。