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傾城阿波の鳴門(順礼歌の段) →傾城阿波の鳴門🔗⭐🔉
傾城阿波の鳴門(順礼歌の段) →傾城阿波の鳴門
よしあしを、何と浪花(なにわ)の町はづれ、玉造(たまづくり)に身を隠す、阿波の十郎兵衛本名隠し、銀十郎と表は浪人、内証(ないしよう)は人はそれとも白波の、夜(よる)のかせぎの道ならぬ、身の行末(ゆくすえ)ぞ是非もなき。人の名を、神と呼るゝ其神は、京の吉田の神帳(しんちよう)に、入た神かや入らぬのか、野暮とも見えぬ悪(あく)ずいほう、とつぱ株の武太六(ぶたろく)が、蚤取り眼(まなこ)に暖簾押上げ、
武太六「銀十郎内にか、用が有(あつ)て逢ひに来た」と、いふ声聞(きい)て女房立出で、
女房「ヲヽ武太六様かようお出(いで)、久しう逢(あわ)ぬがまあ御無事で」
武太六「イヤコレお内儀、逢(あわ)ぬの無事なのと地を打つた台詞(せりふ)ぢやない、無頼者(ならずもの)の伊左衛門に貸(かし)た金、爰(ここ)の銀十郎が受合(うけおう)てけふ中に済(すま)す筈、それで其金受取にきたのぢや、きり
逢(あわ)して下され」と、声も辰巳(たつみ)の上り口、尻まくりして高胡座(たかあぐら)、
女房「ヲヽ其様に声高(こわだか)にいはずと、静(しずか)に物を言(いわ)しやんせ。こちの人は夜が更(ふけ)たので、今昼寝して居られます」
武太六「何ぢや昼寝ぢや、夜が更けたとは、エヽ聞えた、夜通しの挺摺(てこずり)かい、好(よ)い機嫌ぢやな、挺摺(てこず)る金が有るなら、貸(かし)た金戻して行け」と、いふに女房が不審顔、
女房「アノ魚釣に行くに金が入るかへ」
武太六「ヤそりや何いふのぢや」
女房「テモお前、てこつる金が有るなら戻して行(い)けと言はしやんすぢやないかいな、わしや又沙魚(はぜ)釣(つる)やうに白狭(しらさ)海老でつるかと思へば、金で釣るてこといふ魚はどんな魚でござんすぞ」
武太六「エヽ粋方(すいほう)の嚊(かか)に似合ぬきつい太郎四郎ぢや、金を餌(え)にする魚が有つてたまるものか。コレてこづるといふはの、れこさの事ぢやわいの。此方(こなた)も粋方(すいほう)の女房なら、ちつとてんしよでも覚えさうな物ぢやがな、今の世界に青二(あおに)引(ひか)ぬ者と、お染久松語らぬ者は、疫病(やくびよう)を受取るといの。こんな事言ふ間はない、銀十郎
起(おき)て来(こ)んかい、怖(こわ)い事は何もない、高が借銭乞(しやくせんこい)に来たのぢや、起(おき)ざ起(おこ)しに行くぞよ」と、喚(わめ)くを宥(なだ)める女房も、持扱(もてあつこ)うて見えにける。




広辞苑 ページ 24030 での【順礼歌の段】単語。