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幻住庵記 →幻住庵記🔗⭐🔉
幻住庵記 →幻住庵記
石山の奥、岩間のうしろに山有(あり)、国分山(こくぶやま)と云(いう)。そのかみ国分寺の名を伝ふなるべし。麓に細き流を渡りて、翠微に登る事三曲(さんきよく)二百歩にして、八幡宮たゝせたまふ。神体は弥陀の尊像とかや。唯一の家には甚(はなはだ)忌(いむ)なる事を、両部光を和(やわら)げ利益(りやく)の塵を同じうしたまふも又貴し。日比(ひごろ)は人の詣(もうで)ざりければ、いとゞ神さび物しづかなる傍(かたわら)に、住捨(すみすて)し草の戸有(あり)。よもぎ・根笹(ねざさ)軒をかこみ、屋(や)ねもり壁落(おち)て狐狸(こり)ふしどを得たり。幻住菴と云(いう)。あるじの僧何がしは、勇士菅沼氏曲水子の伯父(おじ)になん侍りしを、今は八年(やとせ)計(ばかり)むかしに成(なり)て、正(まさ)に幻住老人の名をのみ残せり。
予又市中をさる事十年(ととせ)計(ばかり)にして、五十年(いそじ)やゝちかき身は、蓑虫のみのを失ひ、蝸牛(かたつぶり)家を離て、奥羽象潟(きさかた)の暑き日に面(おもて)をこがし、高すなごあゆみくるしき北海の荒礒(あらいそ)にきびすを破りて、今歳(ことし)湖水の波に漂(ただよう)。鳰(にお)の浮巣の流(ながれ)とゞまるべき芦の一本(ひともと)の陰たのもしく、軒端茨(ふき)あらため、垣ね結添(ゆいそえ)などして、卯月の初(はじめ)いとかりそめに入(いり)し山の、やがて出(いで)じとさへおもひそみぬ。
広辞苑 ページ 24035 での【幻住庵記 →幻住庵記】単語。