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行人 →行人🔗⭐🔉
行人 →行人
梅田の停車場(ステーシヨン)を下りるや否や自分は母からいい付けられた通り、すぐ俥(くるま)を雇って岡田の家に馳(か)けさせた。岡田は母方(ははかた)の遠縁に当る男であった。自分は彼が果して母の何に当るかを知らずに唯疎(うと)い親類とばかり覚えていた。
大阪へ下りるとすぐ彼を訪(と)うたのには理由があった。自分は此処(ここ)へ来る一週間前或(ある)友達と約束をして、今から十日以内に阪地(はんち)で落ち合おう、そうして一所に高野(こうや)登りを遣ろう、もし時日(じじつ)が許すなら、伊勢から名古屋へ廻ろう、と取り極めた時、どっちも指定すべき場所を有(も)たないので、自分はつい岡田の氏名と住所を自分の友達に告げたのである。
「じゃ大阪へ着き次第、其処(そこ)へ電話を掛ければ君のいるかいないかは、すぐ分るんだね」と友達は別れるとき念を押した。岡田が電話を有っているかどうか、其処は自分にも甚だ危(あや)しかったので、もし電話がなかったら、電信でも郵便でも好(い)いから、すぐ出してくれるように頼んで置いた。友達は甲州線で諏訪まで行って、それから引返して木曾を通った後(あと)、大阪へ出る計画であった。自分は東海道を一息(ひといき)に京都まで来て、其処で四、五日用足(ようたし)かたがた逗留してから、同じ大阪の地を踏む考えであった。
広辞苑 ページ 24039 での【行人 →行人】単語。