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小説神髄     →小説神髄🔗🔉

小説神髄     →小説神髄  小説の美術たる由を明らめまくせば、まづ美術の何たるをば知らざる可らず。さはあれ美術の何たるを明らめまくほりせば、世の謬説を排斥して、美術の本義を定むるをば、まづ第一に必要なりとす。美術に関する議論のごときは古今にさまありといへども、総じて未定未完にして、本義と見るべきものは稀なり。近きころ某といふ米国の博識(ものしり)がわが東京の府下に於てしば美術の理を講じて世の謬説を駁されたれば、今またこゝに事あたらしう同じやうなることを述べて看官の目をわづらはすはいと心なき業に似たれば、たゞ某がいはれたりし美術の本義を抄出して、其あたれるや否やを論じて、おのれが意見をも陳(のべ)まく思へり。某のいはるゝやう、「世界ノ開化ハ人力ノ効績ニ外ナラズ。而シテ人力ノ効績ニ二種アリ。曰ク須用、曰ク装飾。須用ハ偏ヘニ人生必需ノ器用ヲ供スルヲ目的トシ、装飾ハ人ノ心目ヲ娯楽シ気格ヲ高尚ニスルヲ以テ目的トナス。此装飾ヲ名ヅケテ美術ト称ス。故ニ美術ハ専ラ装飾ヲ主脳トナスヲ以テ須用ナラズトナス可ラズ。心目ヲ娯楽シ気格ヲ高尚ニスルハ豈ニ人間社会ノ一緊要事ナラズヤ。之レヲ要スルニ二者皆社会ニ欠クベカラズ。而シテ其異ナル所ヲ覩ルニ、須用ハ真ニ実用ニ適スルガ故ニ善美トナリ、美術ハ善美ナルガ故ニ実用ニ適スルニ至ルノ差アリ。譬ヘバ此小刀ハ甚ダ善美ナリ、即チ須要ナルガ故ニ善美ナリ。彼ノ書画ハ須要ナリ、即チ善美ニシテ気格ヲ高尚ニスルガ故ニ須要ナリ。是レニ由テ之レヲ観レバ、美術ニ於テ善美トナス所ノモノハ其美術タル所以ノ本旨タルヤ明(アキラ)ケシ云々」といはれたりき。

広辞苑 ページ 24064 での小説神髄     →小説神髄単語。