正法眼蔵随聞記　　　　　→正法眼蔵随聞記 　　　　一 　示(じ)ニ云(いわ)ク、ハヅベクンバ明眼(みようがん)ノ人ヲハヅベシ。 　予(よ)、在宋ノ時、天童浄(てんどうじよう)和尚、侍者ニ請(しよう)ズルニ云ク、「外国人タリトイヘドモ、元子(げんす)器量人ナリ。」ト云(いつ)テコレヲ請ズ。 　予、堅ク是ヲ辞ス。其故(そのゆえ)ハ、「和国ニキコヱンタメモ、学道ノ稽古ノタメモ大切ナレドモ、衆中(しゆちゆう)ニ具眼ノ人アリテ、外国人トシテ大叢林ノ侍者タランコト、国ニ人ナキガ如シト難ズルコトアラン、尤モハヅベシ。」トイヽテ、書状ヲモテ此(この)旨(むね)ヲ伸(のべ)シカバ、浄和尚、国ヲ重クシ人ヲハヅルコトヲ許シテ、更ニ請ゼザリシ也。 　　　　二 　示(じ)ニ云(いわく)、有人(あるひと)ノ云(いわく)、「我(われ)は病者(びようじや)也、非器也。学道ニタエズ。法門ノ最要ヲキヽテ、独住隠居シテ、性(しよう)ヲヤシナヒ病(やまい)ヲタスケテ、一生ヲ終(おえ)ン。」ト云(いう)ニ、 　示(じ)ニ云(いわく)、先聖(せんしよう)必シモ金骨ニ非ズ、古人豈(あに)皆上器ナランヤ。滅後ヲ思ヘバ幾バクナラズ、在世ヲ考(かんがう)ルニ人皆ナ俊(しゆん)ナルニ非ズ。善人モアリ、悪人モアリ。比丘衆(しゆ)ノ中ニ、不可思議ノ悪行スルモアリ、最下品(さいげぼん)ノ器量モアリ。然レドモ、卑下シテ道心ヲヲコサズ、非器ナリトイッテ学道セザルナシ。 　今生(こんじよう)モシ学道修行セズハ、何レノ生(しよう)ニカ器量ノ物トナリ、不病ノ者トナラン。只身命(しんみよう)ヲカヘリミズ発心(ほつしん)修行スル、学道ノ最要ナリ。