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真空地帯 →真空地帯🔗⭐🔉
真空地帯 →真空地帯
木谷(きたに)上等兵が二年の刑を終って陸軍刑務所から自分の中隊にかえってきたとき、部隊の様子は彼が部隊本部経理室の使役兵(しえきへい)として勤務中に逮捕され憲兵につれられて師団司令部軍法会議に向ったときとは全く変ってしまっていた。彼は二年前軍隊にはいってからはじめて巻脚絆(まききやはん)をつけることなく衛門(えいもん)をつれ出されたが、巻脚絆も帯剣もつけていない代りに上衣の下に隠した両手に手錠を、その腰に捕縄をつけた身体をふって見上げた衛門横のポプラの木はいまでは切り倒されていた。彼と共に入営した現役兵は大半中支へ渡ってしまっており、部隊には次々と召集された幾種類もの補充兵の他に第一回学徒出陣兵がはいっていた。彼が入営した日身体検査のあとで内務班で支給されたパンも、彼が刑務所で炊事囚として土曜日、祭日につくらされた饅頭(まんじゆう)も部隊には見えなかった。勿論彼もまた同じようにこの期間のうちに非常に変ってしまっていた。ただたんに彼の肩の上には以前のっかっていた星三つの肩章(けんしよう)がなくなっているというだけではなく。もっとも自分の肩の星が三つから二つに減ってしまったということは、木谷に、腕の骨をぬきとられたような感じをあたえたのだが。
広辞苑 ページ 24067 での【真空地帯 →真空地帯】単語。