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千曲川のスケッチ     →千曲川のスケッチ🔗🔉

千曲川のスケッチ     →千曲川のスケッチ  地久節には、わたしは二三の同僚といっしょに、御牧(みまき)が原のほうへ山遊びに出かけた。松林の間なぞを猟師のように歩いて、小松の多い丘の上ではだいぶわらびを採った。それから鴇窪(ときくぼ)という村へ引き返して、田舎の中の田舎とでもいうべきところで半日を送った。  わたしは今、小諸(こもろ)の城跡に近いところの学校で、君と同年くらいな学生を教えている。君はこういう山の上への春がいかに待たれて、そしていかに短いものであると思う。四月の二十日ごろにならなければ、花が咲かない。梅も桜もすもももほとんど同時に開く。城跡の懐古園には二十五日に祭りがあるが、そのころが花の盛りだ。すると、毎年きまりのように風雨がやって来て、いちどきにすべての花をさらって行ってしまう。わたしたちの教室は八重桜の木で囲繞されていて、三週間ばかり前には、ちょうど花束のように密集したやつが教室の窓に近く咲き乱れた。休みの時間に出て見ると、濃い花の影がわたしたちの顔にまで映った。学生らはその下を遊び回って戯れた。ことに小学校から来たての若い生徒ときたら、あっちの木に隠れたり、こっちの枝につかまったり、まるで小鳥のように。どうだろう、それがもうすっかり初夏の光景に変わってしまった。一週間前、わたしは昼の弁当を食った後、四五人の学生といっしょに懐古園へ行って見た。荒廃した、高い石垣の間は、新緑でうずもれていた。

広辞苑 ページ 24085 での千曲川のスケッチ     →千曲川のスケッチ単語。