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浜松中納言物語 →浜松中納言物語🔗⭐🔉
浜松中納言物語 →浜松中納言物語
孝養(きようよう)の心ざし深く思ひ立ちにし道なればにや、おそろしうはるかに思ひやりし波の上なれど、あらき波風にもあはず思ふかたの風なん、ことに吹きをくる心地して、もろこしのうむれいといふ所に、七月上(かみ)の十日におはしましつきぬ。そこを立ちて、かうしうといふ所に泊り給ふ。その泊(とまり)、入江の水うみにて、いと面白きにも、石山のおりの近江の海思ひ出(いで)られて、あはれに恋しき事かぎりなし。
別れにし我(わが)ふる里のにほの海にかげをならべし人ぞ恋しき
それよりこほうだうにつき給(たまう)。いと面白くて、人の家ども多くて、日本の人過ぎ給(たまう)とて、家
の人出でゝ見さはぐさまどもいとめづらし。れきやうといふ所に船とめて、それより花山といふ山、峰高く谷深く、はげしき事かぎりなし。あはれに心ぼそく、
「蒼波(そうは)路(みち)とをし雲千里」
と、うち誦(ずん)じ給へるを、御供(とも)にわたる博士ども、涙をながして、
「白霧(はくぶ)山深し鳥(とり)一声(こえ)」
とそへたり。山越えはてぬれば、函谷の関(せき)につき給ひて、日暮れぬれば、関のもとに泊り給ひぬ。


広辞苑 ページ 24102 での【浜松中納言物語 →浜松中納言物語】単語。