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福富草子 →福富草子🔗⭐🔉
福富草子 →福富草子
人は身に応ぜぬ果報をうらやむまじきことにぞ侍る。昔、福冨の織部とて長者ありけるが、いかなる過去の宿縁(すくえん)にや、身に生れつきたる芸、ひとつさふらひけるが、習はざるに奇特(きどく)を現し、はからざるに名を発して、世の人神の如く思ひける。その芸あさましくいぶせければ、上(かみ)中下までもよく聞き知りて、笑ひをもよほす事なりければ、おのづから公方(おおやけがた)にもきこしめし伝へ給ひて、興じおはしましける事、なゝめならず。されば富めるが上に富み、楽しきが中に楽しみて、棟に棟をあらそひ、蔵(くら)に蔵をたてゝ、いつゝのたなつもの耕さずして、庭にみち
たり。
それが隣に乏少(ぼくしよう)の藤太とて、いと貧しき者侍り。これは織部にひきかへて、朝夕の煙(けふり)も竈(かま)に絶え、水のみち草茂りつゝ、築地(ついじ)にあらぬ柴垣や、幔幕ならぬ薦(こも)だれに、夜寒(よさむ)の床、明かしかねつゝ、軒も垣ほも此為に毀(こぼ)ち取りて、あまり寒さの風を入れける。夏は麻衣あさましくふりたる、破れ団扇(うちわ)にて蚊をはらひ、軒の夕顔はなやかなるを慰めにて、明(あか)し暮すめる。幼(おさな)かりしより契りし人あり。藤太には十余りが姉にや侍りつらんかし。口広ければ、人鬼うばとこそめされける。

たり。
それが隣に乏少(ぼくしよう)の藤太とて、いと貧しき者侍り。これは織部にひきかへて、朝夕の煙(けふり)も竈(かま)に絶え、水のみち草茂りつゝ、築地(ついじ)にあらぬ柴垣や、幔幕ならぬ薦(こも)だれに、夜寒(よさむ)の床、明かしかねつゝ、軒も垣ほも此為に毀(こぼ)ち取りて、あまり寒さの風を入れける。夏は麻衣あさましくふりたる、破れ団扇(うちわ)にて蚊をはらひ、軒の夕顔はなやかなるを慰めにて、明(あか)し暮すめる。幼(おさな)かりしより契りし人あり。藤太には十余りが姉にや侍りつらんかし。口広ければ、人鬼うばとこそめされける。
広辞苑 ページ 24105 での【福富草子 →福富草子】単語。