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武道伝来記     →武道伝来記🔗🔉

武道伝来記     →武道伝来記  武士は人の鑑(かがみ)山、くもらぬ御代(みよ)は久かたの松の春、千鶴万亀(せんかくばんき)のすめる江州の時津海、風絶て、浪に移(うつろ)ふ安土の城下は、むかしになりぬ。  其比(そのころ)、平尾修理といへる人、天武天皇の末裔(ばつよう)にして高家(こうけ)なれば、諸役御免あつて、世を遊楽に其(その)名を埋(うず)み、五十五歳の時、入道して眼夢と改め、其後(そののち)は、長劒・馬上(ばしよう)をやめて、禅学にもとづき、常(つね)の屋かたをはなれ、にしのかたの山陰(かげ)に、小笹(おざさ)かり葺の庵(いおり)むすべば、仏(ほとけ)のえんに引(ひか)れ、生死(しようじ)目前の湖、是(これ)則(すなわち)弘誓(ぐぜい)の丸木船、一大事踏はづしては有(ある)べからずと、観念の南窓(みなみまど)に諸釈(しよじやく)を集めて、見台(けんだい)気を移し、板戸(いたど)内よりしめて、人倫かよひ道なく、それ御姿を見ぬ事、百日にあまりて、すゑの者、是を歎きぬ。  かはらずして長屋淋しく、花見し梢も前栽の秋の哀れに、匂ひ有(あり)ながら蘭衰へ、芭蕉なを夕風に形をうしなひ、門に人稀なれば、鳥の声つのつて、いつとなく内証(ないしよう)は野となりて、鹿もすむべき風情、此(この)あるじの心ざし、市中の山居是(これ)なるべし。

広辞苑 ページ 24108 での武道伝来記     →武道伝来記単語。