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物くさ太郎     →物くさ太郎🔗🔉

物くさ太郎     →物くさ太郎  東山道(とうせんどう)みちのくの末、信濃国十郡(ぐん)のその内に、筑摩(つかま)の郡(こおり)あたらしの郷(ごう)といふところに、不思議の男一人はんべりける。其名を、物くさ太郎ひぢかすと申し候。名を物くさ太郎と申す事は、国にならびなき程の物くさしなり。たゞし名こそ物くさ太郎と申せども、家づくりのありさま、人にすぐれてめでたくぞ侍りける。四面四町(ちよう)に築地(ついじ)をつき、三方に門を立、東西南北に池を堀(ほり)、嶋をつき、松杉を植へ、島より陸地(ろくじ)へそり橋をかけ高欄に擬宝珠(ぎぼうし)をみがき、まことに結構世にこえたり。十二間(けん)の遠侍、九間の渡り廊下、釣殿細殿梅壺、桐壺籬(まがき)が壺にいたる迄、百種の花を植へ、主殿(しゆでん)十二間につくり、桧皮葺(ひわだぶき)に葺かせ、錦をもつて天井をはり、桁うつばり、たる木の組入れには、銀金(しろかねこがね)を金(かな)物にうち、瓔珞の御簾(みす)をかけ、馬屋(や)侍(さぶらい)所にいたる迄、ゆゝしくつくり立(たて)て居ばやと、心には思へ共、いろ事足らねば、たゞ竹を四本立て、こもをかけてぞ居たりける。雨の降るにも、日の照(てる)にも、ならはぬ住居(すまい)して居たり。かやうにつくり悪(わろ)しとは申せども、足(あし)手のあかがり、のみ、しらみ、ひぢの苔にいたるまで、足らはずといふ事なし。もとでなければ商(あきな)ひせず、物をつくらねば食物(じきもつ)なし。四五日のうちにも起き上らず臥せり居たりけり。

広辞苑 ページ 24120 での物くさ太郎     →物くさ太郎単語。