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大和物語 →大和物語🔗⭐🔉
大和物語 →大和物語
亭子(ていじ)の帝(みかど)いまはおりゐたまひなんとするころ、弘徽殿のかべに、伊勢の御(ご)のかきつけける、
わかるれどあひもおしまぬ百敷(ももしき)を見ざらむことのなにか悲しき
とありければ、みかど御覧じて、そのかたはらにかきつけさせたまうける、
身ひとつにあらぬばかりををしなべてゆきかへりてもなどか見ざらむ
となむありける。
帝(みかど)、おりゐ給ひてまたのとしのあき、御ぐしおろし給ひて、ところ
山ぶみし給てをこなひたまひけり。備前の掾にて橘良利(よしとし)といひける人、内におはしましける時、殿上にさぶらひける、御ぐしおろしたまひければやがて御ともにかしらおろししてけり。人にもしられたまはでありき給ける御ともに、これなむをくれたてまつらでさぶらひける。「かゝる御ありきしたまふ、いとあしきことなり」とて、うちより、「少将、中将、これかれ、さぶらへ」とてたてまつれたまひけれど、たがひつゝありきたまふ。和泉のくににいたりたまふて、日根(ひね)といふところにおはします夜あり。いとこゝろぼそうかすかにておはします事を思ひつゝいとかなしかりけり。さて、「ひねといふ事をうたによめ」とおほせ事ありければ、この良利大徳(だいとく)、
ふるさとのたびねのゆめに見えつるはうらみやすらむ又ととはねば
とありけるに、みな人泣きてえよまずなりにけり。その名をなん寛蓮大徳といひてのちまでさぶらひける。


広辞苑 ページ 24124 での【大和物語 →大和物語】単語。