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戊戌夢物語🔗⭐🔉
戊戌夢物語
冬の夜の更行まゝに、人語も微(かすか)に聞えて、履声(くつごえ)も稀に響き、妻戸にひゞく風の音すさまじく、いと物すごきに、物思ふ身は、殊更に眠りもやらず、独几(つくえ)により、燈(あかり)をかゝげ、書を読けるに、夜いたく更ぬれば、いつしか目も労(つか)れ、気も倦(うみ)て、夢ともなく幻ともなく、恍惚たる折節、或方へ招かれ、いとゞ広き座敷に至りぬれば、碩学鴻儒と思(おぼ)しき人々、数十人集会して、色々の物語し侍る。(中略)
イキリスは、日本に対し、敵国にては無之、いはゞ付合も無之他人に候故、今彼れ漂流人を憐れみ、仁義を名とし、態々(わざわざ)送来候者を、何事も取合不申、直に打払に相成候はゞ、日本は民を憐まざる不仁の国と存、若又万一其不仁不義を憤り候はゞ、日本近海にイキリス属島夥しく有之、始終通行致候得者(ば)、後来海上の寇(あだ)と相成候て、海運の邪魔とも罷成(まかりなり)申すべく、たとへ右等の事無之候共、御打払に相成候はゞ、理非も分り不申暴国と存、不義の国と申触(もうしふら)し、礼義国の名を失ひ、是より如何なる患害、萌生(ほうせい)仕候やも難計(はかりがたく)、或は又ひたすらイキリスを恐る様に考付けられ候はゞ、国内衰弱仕候様にも推察為られ、乍恐(おそれながら)国家の御武威を損ぜられ候様にも相成候はんやと、恐多くも考られ候。(下略)
〈日本思想大系55〉
広辞苑 ページ 24209 での【戊戌夢物語】単語。