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風土     →和辻哲郎🔗🔉

風土     →和辻哲郎  人間の存在は歴史的・風土的なる特殊構造を持っている。この特殊性は風土の有限性による風土的類型によって顕著に示される。もとよりこの風土は歴史的風土であるゆえに、風土の類型は同時に歴史の類型である。自分はモンスーン地域における人間の存在の仕方を「モンスーン的」と名づけた。我々の国民もその特殊な存在の仕方においてはまさにモンスーン的である。すなわち受容的・忍従的である。  しかし我々はこれのみによって我々の国民を規定することはできない。風土のみを抽象して考えても、広い大洋と豊かな日光とを受けて豊富に水を恵まれ旺盛に植物が繁茂するという点においてはなるほど我々の国土とインドとはきわめて相似ているが、しかしインドが北方は高山の屏風にさえぎられつつインド洋との間にきわめて規則的な季節風を持つのとは異なり、日本は蒙古シベリアの漠々たる大陸とそれよりもさらに一層漠々たる太平洋との間に介在して、きわめて変化に富む季節風にもまれているのである。大洋のただ中において吸い上げられた豊富な水を真正面から浴びせられるという点において共通であるとしても、その水は一方においては「台風」というごとき季節的ではあっても突発的な、従ってその弁証法的な性格とその猛烈さとにおいて世界に比類なき形を取り、他方においてはその積雪量において世界にまれな大雪の形を取る。かく大雨と大雪との二重の現象において日本はモンスーン域中最も特殊な風土を持つのである。それは熱帯的・寒帯的の二重性格と呼ぶことができる。温帯的なるものは総じて何ほどかの程度において両者を含むのではあるが、しかしかくまで顕著にこの二重性格を顕わすものは、日本の風土を除いてどこにも見いだされない。(中略)  そこで日本の人間の特殊な存在の仕方は、豊かに流露する感情が変化においてひそかに持久しつつその持久的変化の各瞬間に突発性を含むこと、及びこの活発なる感情が反抗においてあきらめに沈み、突発的な昂揚の裏に俄然たるあきらめの静かさを蔵すること、において規定せられる。それはしめやかな激情、戦闘的な恬淡である。これが日本の国民的性格にほかならない。しかしこの国民的性格は歴史においておのれを形成しているのであるゆえに、歴史的な形成物を除いてどこにもその現われている場所はない。(下略)                                 〈岩波文庫〉

広辞苑 ページ 24252 での風土     →和辻哲郎単語。