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歌行灯 →歌行灯🔗⭐🔉
歌行灯 →歌行灯
……熱田の神のみそなはす、七里のわたし浪ゆたかにして、来往の渡船難なく桑名につきたる悦びのあまり……
と口誦むやうに独言の、膝栗毛五編の上の読初め、霜月十日あまりの初夜。中空は冴切つて、星が水垢離取りさうな月明に、踏切の桟橋を渡る影高く、灯ちらちらと目の下に、遠近(おちこち)の樹立の骨ばかりなのを視めながら、桑名の停車場へ下りた旅客がある。
月の影には相応しい、真黒な外套の、痩せた身体に些と広過ぎるを緩く着て、焦茶色の中折帽、真新しいは扨て可いが、馴れない天窓に山を立てゝ、鍔をしつくりと耳へ被さるばかり深く嵌めた、剰(あまつさ)へ、風に取られまいための留紐を、ぶらりと皺た頬へ下げた工合が、時世なれば、道中、笠も載せられず、と断念めた風に見える。年配六十二三の、気ばかり若い弥次郎兵衛。
広辞苑 ページ 24286 での【歌行灯 →歌行灯】単語。