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自然と人生 →自然と人生🔗⭐🔉
自然と人生 →自然と人生
勝てば官軍負けては賊の名を負はされて、思ひ出づれば去ぬる二月降り積む雪を落花と蹴散らして麑城(げいじよう)を出でし一万五千の健児も此処に傷き彼処に死し、果ては四方より狩り立てらるゝ怒猪(いかりい)の牙を咬むでこゝ日州永井の一村に楯篭(たてこも)りしが、今は弾尽き糧尽き勢尽きて、大方は白旗を樹てける中に、せめて一期の思出に稲麻竹葦(とうまちくい)の此重囲(ちようい)をば見事蹴破つて、我此翁と故山の土にならばやと、残る一隊三百余人、草鞋の紐緊々(ひしひし)と引しめ、明治十年八月十七日の夜をこめて月影闇き可愛が岳の山路にかゝりぬ。
小荷駄をば一切取り棄てつ。各自に糧嚢を帯び、銃を提げ、大刀を釣り、松明も点さず、言はず。土人を案内として桐野真先に立てば、薩摩絣の単衣に紺染の兵児帯一尺余りの小脇差を腰にぼつこみ尻高々とからげて煙草吸ひ吸ひ中軍をうつ南洲、村田貴島別府河野野村山野田坂田増田の諸将前後を擁し、殿(しんがり)には逸見(へんみ)の一隊。仮令(よしや)鉄壁にもあれ、我前に立たん程のものは蹴破つて行かむものと思ひ込むでは坐(そぞ)ろに打咲(うちえ)まれつ。
広辞苑 ページ 24296 での【自然と人生 →自然と人生】単語。