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吾輩は猫である →吾輩は猫である🔗⭐🔉
吾輩は猫である →吾輩は猫である
吾輩は猫である。名前はまだ無い。どこで生れたか頓と見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いて居た事丈は記憶して居る。吾輩はこゝで始めて人間といふものを見た。然もあとで聞くとそれは書生といふ人間中で一番獰悪(どうあく)な種族であつたさうだ。此書生といふのは時々我々を捕へて煮て食ふといふ話である。然し其当時は何といふ考もなかつたから別段恐しいとも思はなかつた。但彼の掌に載せられてスーと持ち上げられた時何だかフハフハした感じが有つた許りである。掌の上で少し落ち付いて書生の顔を見たのが所謂人間といふものゝ見始であらう。此時妙なものだと思つた感じが今でも残つて居る。第一毛を以て装飾されべき筈の顔がつるつるして丸で薬缶(やかん)だ。其後猫にも大分逢つたがこんな片輪には一度も出会はした事がない。加之(のみならず)顔の真中が余りに突起して居る。さうして其穴の中から時々ぷうぷうと烟を吹く。どうも咽せぽくて実に弱つた。是が人間の飲む烟草(たばこ)といふものである事は漸く此頃知つた。
広辞苑 ページ 24310 での【吾輩は猫である →吾輩は猫である】単語。