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助六     →助六🔗🔉

助六     →助六  揚巻「こりや意休さんでもないくどい事いわんす。お前の目を忍んで助六さんにあふからは、客さん方の真中で、悪たい口はまだナ事、叩かりやうが擲(ぶ)たりやうが、手に掛(かけ)て殺さりやうが、それが怖(こわ)ふて間夫(まぶ)狂ひがなるものかいナア。慮外ながら三浦屋の揚巻でござんす。男をたてる助六が深間(ふかま)、鬼の女房(にようぼ)にや鬼神(きじん)がなると、今からがこの揚巻が悪たいの初音(はつね)。意休さんと助六さんを、かふマア並べて見た所が、こちらは立派な男振(ぶり)、こちらは意地のわるさうな男つき、譬へて見やうなら、雪と墨、硯の海も鳴門の海も、うみといふ字にふたつはなけれど、深いと浅いが間夫と客。間夫が無ければ女郎は黒暗(くらやみ)。くらがりで見ても、助六さんと意休さんを取違へてよいものかいなア。たとへ茶屋舟宿が意見でも、親方さんのわびことでも、小刀針(こがたなばり)でもやめぬ揚巻が間夫狂ひ。サア、切らしやんせ、たとへ殺されても、助六さんの事は思ひきられぬ。意休さん、私(わた)しにかふいはれたら、よもや助けてはおかんすまいがナ。サア、切らしやんせ」  助六「いかさま、この五丁町(まち)へ脚(すね)をふんごむ野郎めらは、己(おれ)が名をきいて置け。まづ第一(でえいち)をこりが落(おち)る。まだよい事がある。大門(おおもん)をずつと潜(くぐ)ると、己が名を掌(てのひら)へ三遍かいてなめろ。一生女郎にふられるといふことがなへ。見掛(みかけ)は小さな野郎だが、胆(きも)がおつきい。遠くは八王子の炭焼ばゞ、田甫(たんぼ)のはつかけ爺(じじ)い、近くは山谷(さんや)の古遣手(ふるやりて)、梅干ばゞアに至るまで、茶呑ばなしの喧嘩沙汰。男達(おとこだて)の無尽のかけずて。終(つい)に引けをとつた事のねへ男だ。江戸紫の鉢巻に、髪はなまじめはけ先の、間から覗ひて見ろ、安房上総が浮画のやうに見へるは。相手がふへれば竜(りゆう)に水、金竜山の客殿から、目黒の尊像まで、御存じの江戸八百八町に隠れのねへ、杏葉(ぎよよう)牡丹の紋付も、桜に匂ふ仲の町(ちよう)、花川戸の助六とも、また揚巻の助六ともいふ若いもの、間近くよつてしやツ面(つら)を拝み奉つれヱヽ」

広辞苑 ページ 24075 での助六     →助六単語。