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な・い【無い・莫い・勿い・毋い・无い・亡い】🔗⭐🔉
な・い【無い・莫い・勿い・毋い・无い・亡い】
〔形口〕
な・し〔形ク〕
存在しない。
1 …が存在しない。所有しない。具備しない。*古事記‐上・歌謡「汝を置(き)て男は那志(ナシ)」*源氏‐帚木「なよびかにをかしきことはなくて」
2 (1の特殊な場合)
家にいない。不在である。*源氏‐夕顔「少将のなき折に見すれば心うしと思へど」
(亡)世にない。故人になっている。→亡き。*万葉‐四四六「吾妹子が見し鞆の浦のむろの木は常世にあれど見し人そ奈吉(ナキ)」
3 抽象的な事柄について、その実現の否定を表す。
実現しない。事が起こらない。主として「…することなし」の形で、用言の意味を打ち消す。*万葉‐三六「此の川の絶ゆること奈久(ナク)」
主として「…せずといふことなし」「…せざるはなし」などの形で、二重否定から「すべて…する」の意を表す。*日蓮遺文‐南条殿御返事「一人として仏にならざるはなし」
(「なきようなり」の形で)正体がない。魂を失っている。*源氏‐賢木「なかばはなきやうなるみけしきの、心ぐるしければ」
世間からみすてられている。*源氏‐絵合「中頃なきになりて沈みたりし」
4 事実がない。無実である。不当である。*大鏡‐二「なきことによりかくつみせられ給ふを」
5 またとない。外にない。比べものがない。「おかしいったらない」「母の心配ったらなかった」*十訓抄‐一〇「なきすき者にて、朝夕琴をさしおく事なかりけり」
補助的に用いて、否定の意を表す。
1 形容詞活用の連用法を受ける。*源氏‐柏木「年頃下の心こそ懇に深くもなかりしか」
2 副詞「さ」「かく」などを受ける。→さなきだに・さもない。*枕‐四一「よる鳴くもの、なにもなにもめでたし。ちごどものみぞさしもなき」
3 「である」の打消。あらず。
体言に付いた助動詞「なり」「だ」、また、形容動詞の連用法を受ける。*竹取「ここにつかはるる人にもなきにねがひをかなふることの嬉しさ」
打消の語に付いた助動詞「だ」の連用法を受ける。全くは否定せず、いくぶんの存在を認めるさま。…しないわけではない。「理解できないではない」
「ではないか」の形で、動詞、形容詞の終止形、形容動詞語幹および体言を受けて、予想外の事に驚いた気持、相手に判断の同意を求め、また問いただし、詰問する気持を表す。「来ると言ったじゃない」
動詞の未然形に助動詞「う」「よう」の付いたものを受けて、相手の同意を求め、勧誘する気持を表す。「がんばろうではないか」
4 用言に付いた助動詞「のだ」の連用法を受ける。
否定的説明。「それはほめるのではない、けなすのだ」
禁止の言いきかせ。「泣くんじゃないよ」「見るんじゃない」
5 接頭語「御(お・おん・ご)」を冠した動詞連用形に付いた助動詞「だ」の連用法を受ける。
「お…だ」の打消。「…しない」「…していない」の意の尊敬語。*滑・素人狂言紋切形‐上「おまへは三升をおほめでないから、私もほめません」
禁止。同輩または目下に用いる。*人情・仮名文章娘節用‐前「アレモウいやだヨ、おふざけでない」
6 接頭語「御(お・おん・ご)」を冠した動詞の連用形に付いて、敬意のある打消を表す。*蒙求抄‐七「下の邪正を、御知りなうてはぢゃそ」
7 引用を表わす助詞「と」を受ける。
「と」が動詞活用の終止形に付く。その事態が起こっていないこと、また、自覚また確認できないことを表す。*万葉‐五九二「逢ふとは奈之(ナシ)に」
「と」が動詞活用の終止形に付く。明確でないさまでその事態の起こっていることを表す。「聞くともなしに聞く」「降るともなき春の雨」
「と」が体言または引用句に付く。それと指定しないこと、限定されないさまを表す。「大小」「昼夜」など対語に付くもの、「いつとなく」「どことなく」「そこはかとなく」など不定の語に付くものも多い。*曾丹集「いづこともなくなべて霞めば」
8 他動詞の連用形に助詞「て(で)」の付いたものを受ける。動作が起こらなかった状態にあることを表す。「名前はまだつけてない」「届は出してないが、休むつもりだ」
[補注](1)ただし、「はしたない」などの類の「ない」は、形容詞を作る接尾語であって、この形容詞の「ない」とは別のもとのであると考えられる。→接尾語「ない」。(2)活用形として「なく・なし・なき・なけれ」のほか、上代には未然形、已然形に「なけ」がある。「万葉‐三四二一」の「わがへには故はなけども子らによりてぞ」など。→なけなくに。なお、副詞法の「なく」にあたるところに、「なしに」が用いられることがある。(3)「あり」の結合した「なかり」は、上代には連用形「なかりけり・なかりし」、終止形「わぎもこに恋ひすべなかり」、連体形「ほととぎす無かる国」、已然形「神は無かれや」、命令形「浦吹く風の止む時無かれ」などの例があるが、平安時代には、補助活用としてもっぱら未然形「無からむ」など、連用形「無かりけり」など、連体形「無かるべし」などの助動詞への連接形が用いられ、また特に命令形「なかれ」は、「きることなかれ」「見るなかれ」など禁止の語として、特別の用法をもつようになった。→なけなくに(4)江戸語では、「なし」が次のように終止や「か」を付ける質問に用いられる。「洒・辰巳之園」の「なんと深川へいく気はなしか」、「滑・浮世風呂‐二」の「出好(でずき)での、内に尻が居る間(すは)なしさ」など。(5)「ない」は、様態の助動詞「そうだ」に続くとき、語幹から接尾語「さ」を介して続く。(6)補助的に用いる「ない」「なし」を助動詞とする説もある。→ない(助動詞)
●無い図(ず)
今まで世間で見たことのない図柄。転じて、これまでにない珍しいこと。珍奇な趣向・様子。*浮・好色由来揃‐五「下京の者と見えてない図な男」
●無い袖(そで)は=振れぬ[=振られぬ]
実際ないものはどうにもしようがない。してやりたいと思っても力がなくてどうにもならない。
●無い知恵(ちえ)を絞る
四苦八苦して方策を考える。
●無い名(な)
1 ⇒なき(無)名
2 めったにない名前。珍しい名前。
●無いも=しない[=せぬ]
(「ない」を強調した表現)ありもしない。あるはずがない。*人情・祝井風呂時雨傘‐一五回「無いもしない事をいって、人に気を揉ませはしないわね」
●亡き跡(あと)
亡くなったあと。死んだのち。
●亡き影(かげ)
1 死んだ人の面影。死者の霊。*源氏‐松風「親の御なきかげを恥づかしめむ事」
2 亡くなったあと。死んで霊魂となってしまっていること。*源氏‐浮舟「なきかげにうき名流さんことをこそ思へ」
●亡き数(かず)
亡くなったものの数。なき人のなかま。死人のうち。「亡き数に入る」
●亡き魂(たま)
亡き人のたましい。亡霊。
●無き手(て)
ふたつとない手段・方法。また、この上もない手ぶり。
●無き手を出す
1 この上もない秘術を尽くす。
2 できそうもないことに知恵をしぼって種々の手段をめぐらす。
●無き名(な)
何の事実もない噂。身に覚えのない噂。ぬれぎぬ。
●無きにしも非(あら)ず
ないわけでもない。少しはある。また、ないのではない。確実にある。
●無きになす
ないものとする。数の中に入れない。無視する。
●亡き人(ひと)
この世にいない人。死んで今はいない人。死者。
●亡き身(み)
死んでこの世の人ではなくなった身。
●亡きもの
1 現存しないもの。ないに等しいもの。
2 この世にいない人。死んだ人。
●亡きものにする
殺す。
●亡き世(よ)
自分が死んで存在しない世。死後。
●無くて七癖(ななくせ)あって四十八癖(しじゅうはっくせ)
多かれ少なかれ人には癖がある。
●無くもがな
ない方がよい。なくてよい。あらずもがな。*伊勢‐八四「世の中にさらぬ別れのなくも哉」
●無しに
⇒親見出し




















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