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もの【物】🔗🔉

もの【物】 なんらかの形をそなえた物体一般をいう。 1 形のある物体・物品をさしていう。修飾語によってその物体の種類・所属などを限定する場合。「海のものとも山のものとも知れない」「自分のものとする」「もの不足」*万葉‐三七六五「形見の母能(モノ)を人に示すな」 2 特定の物体・物品を一般化していう。文脈や場面から具体物が自明のこととして用いる場合。 財物。金銭。*土左「便りごとにものも絶えず得(え)させたり」衣類。織布。*大和‐一四六「これに物ぬぎて取らせざらむ者は」飲食物。「歩きながらものを食べる」*竹取「きたなき所の物きこしめしたれば」楽器。*源氏‐乙女「宮はよろづのものの上手におはすれば」 3 対象をあからさまにいうことをはばかって抽象化していう。 神仏、妖怪、怨霊など、恐怖・畏怖の対象。「ものに憑かれたよう」*仏足石歌「四つの蛇(へみ)五つの毛乃(モノ)の集まれる穢き身をば」物の怪(け)による病。また、一般に病傷、はれものなど。*伊勢‐五九「かくて物いたく病みて死に入りたりければ」陰部。 4 民法上の有体物で、動産および不動産をいう。 個々の具体物から離れて抽象化された事柄、概念をいう。 1 事物、事柄を総括していう。「ものを知らないにもほどがある」「もののわかった人」「ものの弾み」*万葉‐四三六〇「母能(モノ)ごとに栄ゆる時と見(め)し給ひ明らめ給ひ」 2 「ものの…」の形で抽象的な語句を伴って、漠然と限定した事柄をいう。 事態、状況についていう場合。「ものの見事に」*平中‐二七「さすがにいとよくものの気色を見て」心情についていう場合。*土左「都へと思ふをもののかなしきは」 3 概念化された場所を表す。中古から中世にかけて、特に神社仏閣をさすことが多い。*古今‐三三八「ものへまかりける人を待ちて」 4 ことば。言語。転じて、文章や書物をいい、さらにことばによって表される内容をさしていう。「呆れてものが言えない」*万葉‐三四八一「家の妹に毛乃(モノ)言はず来にて思ひ苦しも」 5 考え。意識して心にとめる事柄。*万葉‐七七「吾が大君物(もの)な思ほし」 6 特定の事柄が思い出せなかったり、わざとはっきりと言わないようにしたりするとき、また、具体的な事柄を指示できないとき、問われて返答に窮したときなどに仮にいう語。*虎明本狂言・茫々頭「『なんじゃなんじゃと申ほどに、物じゃと申た』『なんじゃといふた』『物じゃ』」 7 言いよどんだとき、あるいは、間(ま)をとったりするために、話の間にはさんで用いる語。*滑・浮世風呂‐前「田舎出の下男、〈略〉モノ、金を拵(こせへ)べい云(てっ)て山事は悪い事だネ」 抽象化した漠然とした事柄を、ある価値観を伴ってさし示す。 1 一般的・平均的なもの、また、一人前の、れっきとしたもの。物についても人についてもいう。「物の役に立たない」*蜻蛉‐上「かたちとても人に似ず、心魂もあるにもあらで、かうものの要にもあらであるも」 2 大事、大変なこと、重要なこと。問題。「ものともしない」「ものの数ではない」*金刀比羅本保元‐下「これ程の輿、物(モノ)にてや有るべき」 他の語句を受けて、それを一つの概念として体言化する形式名詞。直接には用言の連体形を受けて用いる。 1 そのような事態、事情、意図などの意を表す。「あきらめたものと見えて」*万葉‐三六〇一「しましくも独りありうる毛能(モノ)にあれや」 2 文末にあって断定の語を伴い、話し手の断定の気持を強めた表現となる。近代では固定化した類型的表現に用い、「…するものだ」などの形で、当然の条理や帰結の意であることを表し、「…したものだ」などの形で、くりかえし起こったことに対する回想を表す。→ものぞ。「世の中はそういうものだ」*万葉‐三九〇四「咲きの盛りは懐しき物(もの)なり」 3 活用語の連体形を受けて文を終止し、感動の気持を表す。さらに終助詞を付けて、逆接的な余情をこめたり、疑問・反語の表現になったりすることが多い。「そんな事があるものか」*古事記‐下・歌謡「立薦(たつごも)も持ちて来(こ)まし母能(モノ)寝むと知りせば」 〔終助〕(のような形式名詞的用法、特に3の用法などからさらに進んだもの)終止した文に付加して、不満の意をこめて反論したり、甘えの気持をもって自分の意思を主張したりする。主として婦人・子どもの表現。*浄・嫗山姥‐灯籠「アア誠さふじゃ物、なう判官殿」 〔接頭〕主として形容詞、形容動詞、または状態を示す動詞の上に付いて、なんとなく、そこはかとなく、そのような状態である意を表す。「ものうい」「ものさびしい」「ものしずか」「ものふる」など。→うら(心) 〔語素〕 1 名詞や形容詞の語幹に付いて、その範疇(はんちゅう)に属する物品であることを表す。「春もの」「先もの」「大もの」。「薄もの」など。 2 土地などを表す名詞に付いて、その土地の生産物であることを表す。「北海もの」「西陣もの」など。 3 (「武」と書くこともある)他の語の上に付いて、戦(いくさ)や戦陣に関する事物である意を表す。「もののぐ」「ものがしら」「ものぬし」など。 4 動詞の連用形に付いて、 そのような動作の結果できた物品であることを表す。「塗りもの」「干もの」「焼きもの」など。そのような動作の対象となる物品を表す。「食べもの」「読みもの」「たきもの」など。 ●物合(あ)う 物事が思い通りになる。物事が都合よくいく。 ●物言う ⇒親見出し ●物言(い)う花(はな) (物の意味を解し、口をきく花の意で)美人の称。解語の花。 ●物言えば唇(くちびる)寒し秋の風 芭蕉の句で、貞享年間に成ったといわれる「座右の銘」、「人の短をいふ事なかれ己が長をとく事なかれ」のあとに添えられているもの。人の短所を言った後には、なんとなくさびしい気持がする。転じて、なまじよけいなことを言えば、そのために禍いを招くということ。 ●物言(い)わぬ花(はな) 美人を「物言う花」というのに対して、草木の花の称。 ●物覚(おぼ)ゆ 1 物事を識別することができる。心がたしかである。正気である。 2 物心がつく。 ●物がいる 経費を要する。費用がかかる。 ●物がない 味も風情もない。つまらない。ぐあいが悪い。 ●物聞(き)こゆ お話を申し上げる。 ●物承(けたまわ)る (「ものうけたまわる」の略)人にものいうときに、まずいう呼びかけのことば。申し上げます。*源氏‐帚木「ものけ給はる。いづくにおはしますぞ」 ●物問(と)う うらなう。 ●物ともせず 問題にもしない。何とも思わない。 ●物ならず 問題ではない。たいしたことではない。たやすいことである。 ●物に当(あ)たる 物に突き当たるほど、あわててとり乱す。*源氏‐葵「あさましければ殿の内の人ものにぞあたる」 ●物に襲(おそ)わる 夢で恐ろしいものにおそわれる。 ●物にする 1 思い通りのものにする。意図したように事を運び、なしとげる。 2 目がけて女性を手に入れる。 3 習い覚えて役に立つようにする。習得する。「英語をものにする」 ●物になる 1 一かどの人になる。立派な人になる。 2 思い通りになる。意図したように事が運び、成就する。 3 目がけていた女性が手にはいる。 4 習い覚えたものが役に立つようになる。 ●物に似(に)ず なみなみでない。他に比べようがない。 ●物には七十五度(しちじゅうごたび) 物事には限度があるという意。 ●物にもあらず それと認むべきほどの物でもない。問題にもならない。 ●物の彼方(あなた) 1 物のあちら。物の向こう側。 2 来世。後の世。 ●物の哀(あわ)れ 物事にふれてひき起こされる感動。多くは「おかし」「おもしろし」などの知的興味やはなやかさの感覚とは違った、しめやかな感情・情緒についていう。 1 人の心を、同情をもって十分に理解できること。人情の機微のわかること。*土左「楫取、もののあはれもしらで〈略〉はやく往なんとて」 2 物事にふれて起こる、しみじみとした回顧の感慨。*宇津保‐内侍督「よろづ物のあはれなむ思ひいでられ」 3 物事や季節などによってよび起こされる、しみじみとした情趣。折からの感興。*拾遺‐五一一「物のあはれは秋ぞまされる」 4 何かに深く感動することのできる感じやすい心。情趣や風流を理解し感じとることのできる情緒的教養。*枕‐一三五「説くことはたいと悲しければ、ことにもののあはれ深かるまじき若き人々、みな泣くめり」 5 悲哀や同情を感じさせるような気の毒なさま。*浮・好色一代男‐四「物のあはれをとどめしは、去大名の、北の御方に召つかはれて、日のめもついに、見給はぬ女郎達や、おはした也」 本居宣長が提唱した、平安時代の文芸の美的理念。外界である「もの」と、感情を形成する「あわれ」との一致する所に生ずる調和した情趣の世界を理念化したもの。自然・人生の諸相にふれてひき出される優美・繊細・哀愁の理念。その最高の達成が「源氏物語」であると考えた。 ●物の折(おり)[=折節(おりふし)] なにかの機会があるとき。また、ちょうどその機会。 ●物の数(かず) 取り上げて数え立てるほどのもの。問題にすべきもの。多く打消の語を伴って用いる。「彼など物の数ではない」 ●物の聞(き)こえ 世間の評判。世の噂。とりざた。 ●物の具(ぐ) ⇒親見出し ●物の怪(け) ⇒親見出し ●物の心(こころ) 1 物事の中にある道理。世間の事柄や人情などの奥にある条理。 2 物事の情趣。自然や音楽・芸術などの持つ美的情緒。また、人間的真情。 ●物の先(さき)を折る 事柄の出端をくじく。 ●物の諭(さと)し 神仏のお告げ。警告として現れた前兆。 ●物の師(し) 1 学問・芸能など専門の道に関することを教授する者。 2 特に、歌舞音曲の師。 ●物の上手(じょうず) ある技芸にすぐれた才能を持つ人。その道の名人。 ●物の譬(たとえ・たとい) ある物事のたとえ。ことのたとえ。 ●物の序(ついで) 何かほかのことをするのといっしょの機会。何かをするおり。ことのついで。 ●物の積(つ)み 語義未詳。胸や腹などの苦しくなる病気。食物が滞る病状で、食いもたれとも、胸や胃が激しく痛む癪(しゃく)などの病気とも、「物の罪」で、何かの報いの意であるともいう。*落窪‐二「ここに胸やみ給ふめり、物のつみかと、かいさぐり」 ●物の名(な) 和歌や俳諧で、与えられた物の名称を、前後の意味に関係なく、掛詞のようによみ込むもの。 ●物の音(ね) 楽器の音。また、音楽。 ●物の初(はじ)め 物事の最初。発端。さいさき。 ●物のはずみ ちょっとした動機や成り行き。 ●物の節(ふし) 近衛府に属し、特に音楽の技に長じた者が選ばれ、任命される役名。 ●物の本(ほん) 1 本の総称。書物。書冊。 2 学問的な内容の書物。教養のためのかたい書物。娯楽的な読物の草紙などに対していう。 3 江戸時代の中期以後、物語類の書物をいう。 4 その方面のことが書かれている書物。「物の本によると」 ●物の紛(まぎ)れ 1 物事の繁雑多忙などによる混乱にまきこまれること。取り紛れて気づかないこと。 2 密かに人目を紛らわして事をなすこと。特に、密会のことをそれとなくいう。みそかごと。 ●物の見事(みごと) (「見事」を強めた表現)たいそう見事であるさま。まことに立派に。 ●物の用(よう) 何かの役。ある物事の役。 ●物は言(い)いよう 物事は言いようによってどうにでも聞こえる。事は言いなし。 ●物は相談(そうだん) 1 物事はなんでも、他人とよく相談してみるものである。望みがなさそうなことでも、独りぎめにせず人と相談してみれば、案外うまくいくこともあるということ。物は談合。 2 相手に相談をもちかけるときや相手の助けや知恵を借りたいときにいうことば。 ●物は試(ため)し 物事はなんでも、実地に試してみなければその成否やよしあしはわからない。ともかく一度やってみるがよいということ。 ●物も言いようで角(かど)が立つ 何でもない事でも話のしかたによっては相手の感情を傷つけることがあるものである。 ●物申(もう) ⇒親見出し ●物思(も)う =もの(物)を思(おも)う ●物申す ⇒親見出し ●物も覚(おぼ)えず 1 どうしたらよいかわからなくなる。正気を失う。夢中になる。*源氏‐夕顔「右近は、物もおぼえず、君に、つと添ひたてまつりて」 2 思いがけない。予想もつかない。*栄花‐浦々の別「ただ物も覚えぬ水のさと流出づれば」 3 物事の道理をわきまえない。*平家‐四「物もおぼえぬ官人共が申様かな」 ●物を言(い)う 1 ことばを発する。 口に出して何かしゃべる。話をする。口をきく。ことばをかわして親しくする。ねんごろにする。*源氏‐真木柱「いかなる心にて、かやうの人に、物をいひけん」うるさく文句をいう。不平をいう。小言をいう。*蜻蛉‐中「かかるところにては、物などいふ人もあらじかし」挨拶(あいさつ)をする。声をかける。*読・春雨物語‐樊噌下「恐しくなりて、物もいはで出ぬ」 2 効力を発揮する。証明する。役に立つ。「長年の経験が物を言う」 ●物を言(い)わす その物の力を十分に出させる。威力を発揮させる。「物量に物を言わす」 ●物を思(おも)う 物事を思い悩む。思いにふける。 ●物を突(つ)く 何か吐く。食べた物を吐く。

日国 ページ 19551 での単語。