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5.2  ところで, 印欧基語とゲルマン語との音対応をさらに詳しくみていくと, そこに一つの問題が生じる. 1) の規則に対して上例の L pater: E father の語頭🔗🔉

5.2  ところで, 印欧基語とゲルマン語との音対応をさらに詳しくみていくと, そこに一つの問題が生じる. 1) の規則に対して上例の L pater: E father の語頭の p: f は適合するが, 語間の t: th の対応はどうであろうか. これは一見規則的のようだが, 実は偶然の結果に過ぎない. というのは, father の OE 形は fder で Gmc fr に遡り, 従って IE t: Gmc (//) の対立を示すことになるからである. 同様に IE p, k もしばしば f, χ(h) とならずにその有声音 (/β/), (//) として現れることが分った. Grimm の法則に対してこれは重大な例外といわなければならない. しかし 1875 年, デンマークの言語学者 Karl Verner (1846-96) はこれらの変化が印欧基語のアクセントの位置に帰因することを明らかにしたのである. すなわち, IE p, t, k は有声音の間にあるとき, 直前の音節にアクセントがあれば規則どおり無声の f, , χ だが, 直前の音節にアクセントがなければそれぞれの有声音 , , として現れる. そこで father の IE から OE に至る発達の過程は次のように推定できる: IE ptr- > Gmc far > fr > WGmc fder > OE fder. この場合, ゲルマン語派ではまず子音推移が部分的に行われ, その後でアクセントの語幹主母音への固定化が生じたと考えられる.

研究社新英和大辞典 ページ 168237